マレーシア視察報告 その1(by早嶋聡史)

EQパートナーズ講師の早嶋聡史です。
早嶋さんマレーシアIMG_4941
(左が早嶋講師)

以下は、2014年2月25日から28日の間に訪れたマレーシアの視察報告です。
現地でのビジネスパーソンとの情報交換をベースに、私見をふんだんに盛り込んでいるレポートのため、事実と異なる部分もあります。

【マレーシア】
現在、大量消費の経済からサービスビジネス、付加価値ビジネスに価値観が急激にシフトしている。
ハード面は充実してきているが、それを補うソフト面がまだまだ追いついていない。
5年、10年後には第3次産業が占める割合が高まるだろう。

マレーシアは基本的に資源の豊かさで成り立った国であるため、現地のビジネスパーソンには、効果や効率を求めるスタイルが定着していないという。
例えば、パームヤシのオイルを絞るビジネスで、絞る効率を改善するよりは、資本を入れて工場を追加したほうが楽という考えがある。
つまり価値の中に効率やスピードの概念が少ない。
日本人は同じインプットでより多くのアウトプットを求めるが、資源国はアウトプットを増やすにはインプットを増やせばよいと考える。
同時に、一人あたりのスピードを早めるよりは、複数の人間を使って作業を行えばよいと考える。
この価値感の違いは、彼ら彼女らとビジネスを行う場合、非常に重要だと考える。

マレーシアの経済状況、社会環境、文化面は、ざっくりと言えば30年前の日本と同じ。
超金持ちと普通に生活ができるレベルの人が急増している。
上流層の日本に対する感情は非常に良い。
例えば、3月の日本行きの飛行機はほぼ取れない状況。
マレーシアのネイティブが日本に行ったときに購入するおみやげの平均金額は18万円という統計があることからも彼ら彼女らのバイイングパワーが高いことがよく分かる。

多民族国家なので、消費者向けのビジネスを行う場合、ビジネスのポジションを明確にしてもターゲットの絞り込みは極めて難しい。
超尖って一部にフォーカスをしてニッチを目指す以外は、ある程度ゆるやかなターゲットにフォーカスするマーケティングがまだまだ重要と考えられる。
差別化を実施するにはまだまだ経済が豊かになっていないため、他との違いにプレミアムを払う人々の割合が圧倒的に少ないからだ。
仮に行うとしたら、超金持ちモデルか大衆モデルのどちらかにポジションを明確にふること。
日本で言う「差別化戦略」が受け入れられるのはまだまだ先で、早くとも5年くらいの時差があると思われる。

例えば飲食業では、一つのメニュー、単一民族に絞るのではなく、フュージョンのような幅が広いメニューが受け入れられる。
日本企業の進出で失敗しているのは、うどん専門店のような店。
和食で成功している企業も、和食をうまく現地にアレンジしている企業が目立つ。

大衆層にフォーカスするビジネスであれば、まずは見た目から入ることが重要。
機能や感情部分は、国やそこで生活している国民のレベルが追いついてから。
まずは徹底的にコストを考えながら、雰囲気が味わえる「なんちゃって」で参入した企業がシェアをとっている印象。
あまりにも凝り過ぎて研ぎ澄まされたビジネスが受け入れられる余地は、まだまだ少ない。
ライフサイクルを考えながら企業のポジションを変えていく必要がある。

一方で、ライフスタイルに西洋文化が浸透してきている過渡期であることを感じる。
モールなどにも、日本でも流行りそうなベーカリーやケーキ店が出店し、人気を得ている。
ベーカリーやケーキ店などは今後、屋台がひしめく街並みにも徐々に増えていくことだろう。

【ブキット・ビンタン地区】
飲食、小売、サービス業の出店としてブキッ・ビンタン地区を視察。
こちらはクアラ・ルンプール随一の繁華街。ホテル、モール、レストラン街、屋台街と忙しい。
ブキッ・ビンタン通りには、Starhill Gallery、KL Plaza、BB Plaza、Lot 10、Sungei Wang Plaza、Pavilionなどの巨大ショッピングセンターが立ち並ぶ。

パビリオンデパート。福岡で言えば、リバレインのイメージ。高級店舗を集めたモールだが、価格をハイエンドに振りすぎているせいか、人通りもまばら。
この価格帯でお買い物ができる人がまだまだ追いついていない印象。
モールに入っている飲食店を中心に視察、老舗の日本料理店である勘八(現地では高級)かフードコートが人気で、中途半端な価格設定の店舗の客足はまばら。

パビリオンデパートの6Fにある日本を彷彿とさせるコンセプトショップ街であるTokyo Street。
早嶋さんマレーシア
イメージは羽田空港の国際線ターミナルにある江戸小路のマレーシア版のようなもの。
行く前の口コミでは現地人を含めて大人気の場所とのことだったが、コンセプトがまだまだクアラ・ルンプールに馴染んでいる印象がない。
売っている商品や食べ物も現地価格からするとやはり割高。
ハレの日のデートにちょっと見学する程度の利用が目立つ。
当然、こちらには日本でもなじみの店舗が出店している。

この地区には更にスーパーブランドを集めているモールがある。
そこには最高のレストランも揃っている。リッツ・カールトンなどの一流ホテルも併設している。
平日はまだらな客足だが、休日になると買い物客で賑わっている。
一部はシンガポールから車を飛ばして食事と買物がてら楽しんでいる顧客もいるという。
通常の見方であれば成り立たないような空間と商品ラインナップであるが、超金持ち層のお買い物ニーズを満たすにはちょうどよいサイズでもある。

【飲食事情】
宿泊したパークホテルの周辺は、地元で人気のモールがあり、その裏には昔からの屋台街が広がる。
当たり前だが、モールと屋台街、その周辺の飲食レストランの価格差が面白い。
モールと違って周辺のレストランはどこも現地の人や観光客、ビジネスパーソンで賑わっている。

マレーシアでモールが充実しているのは、元々はウエットマーケットで食事や買物のをする風習があるからだろう。
フードコートと言っても、様々な料理を楽しめ、味はモールの上層階のレストランとほとんど大差はない。
レストランは、着飾ったハレの場でフードコートは日常的に食事を取る場所という印象。

モールを離れた場所では今でも市場と併設した屋台が折り重なっている。
こちらで日常的にご飯を食べている姿はまさにアジア的。
面白いと感じたのは、食事をテイクアウトする際、普通のビニール袋に入れて終わり。
ん?残飯!?なんて思ってしまったが、それは考え方の違いで、日本のきれいなパッケージのような発想はなく、食事という機能に徹底的にフォーカスされた結果だろう。
今後、食事を目で楽しむというプレゼンテーションが徐々に受け入れられるにつれ、食事の容器などに変化が出てくるかもしれない。

朝にローカルの野菜、肉、魚などの市場を訪れた。
規模としては中位だが、通勤前の社員が朝食を食べているそばで市場が開催されている。
ものを運搬する道具にサイドカーが目立つ。
日本式の後ろから引くタイプが普及しなかったのは、荷物を横で見られるという安心感からか。

ドリアンの専門店や屋台が目立つ。
街なかを歩いているときに強い臭いを感じることがある。
何度かトライしたが、玉ねぎが腐ったような強い香りと後味がなんとも言えない。
このような腐敗臭の強い果物は旨味成分が詰まっているため徐々にやみつきになるのだろう。
ちなみに一度ドリアンを食べると、胃の中からしばらくその香りと隣り合わせになることになる。
場合によっては身体や汗からもその香りがして、なんとも言えない感覚に陥る。

マレーシアは宗教的な理由から、お酒の提供が出来ないお店が多い。
お酒の提供をしているお店で人気なのが街角にある立地でテラス席を多めに有している店舗。
メニューもアラカルトを増やしてビールや他のお酒に合わせて提供する店は、現地の人、ビジネスパーソン含めて賑わっている。
一方、同じお酒を提供する店でも、メニュー1つの商品が割高で、しっかりとした食事のニュアンスで提供している店舗は賑わいが少ない。

基本アジア圏はどこも外食文化がある。
アジア圏かつイスラム圏の特徴は、お酒がNGというところか。
マレーシアではお酒を飲みながら食事をする習慣はローカルの人にはない。
したがって、お酒を飲みながら少しずつご飯を食べる作法は好まれないのだろう。
日本食やフレンチのようにコースという概念は余り一般的ではないようである。
一方で、プレートにご飯やおかずなどが一緒に盛られた食事はいたるところで見かける。
また屋台ではいわゆる焼きそば、焼き飯、串焼き、鍋の類が多く、皆、甘いジュースを片手に食事を楽しんでいる。

以上のことから考えると、マレーシアでローカルをターゲットにするには、食事を中心に一気に提供できるようなお店が無難。
ローカルでも人気店は23時から24時頃には閉店。
一方、チェーン店やどこでも見かけるような大衆向けのレストランは24時間開けていて、ローカルの胃袋を満たしている。
後者のポジションは明確で、24時間、ローカルの食事がお酒は無いが格安で楽しめる、といったところ。
ただし、ローカルと言っても様々な人種が入り交じっているのでターゲットを絞るのが難しそうな印象。

ローカルにフォーカスするのであれば、同程度の価格で少しだけ味のテイストを上げる、24時間オープン、飲食が集まる立地条件が必要。
差別化をするのであれば、モールやローカルフードが集まる立地条件に、ハイエンドの価格で勝負をする店舗。
ただし、その国の味をそのまま提供する本格派ではなく、飽くまでマレーの味付けに変更したフュージョンが受け入れやすい。
中途半端なショップは貧富の差が明確なのでまだまだ受け入れられない印象。
日本食で勝負をするなら、ラーメン、カレー(豚はハラルで要注意)、焼きそば、たこ焼きなど濃い味で一度にお腹が満たされるような食事か。
これらのような単品で勝負して回転を上げる業態の出店は未だ少ない。
が、上記の商品をプレミアムを付けて価格をあげた瞬間、単品だけでは顧客を集客できないのでポジション、ターゲットと価格帯の整合性は非常に重要。

【ハラル】
マレーシアのハラル認証はどのイスラム圏よりも厳しい。
そのため、今後イスラム圏に進出したい企業はまずマレーシアでハラルの認定を得て展開を考える。
ハラルの認証は飲食の材料加工や調味料、薬をつつむカプセルなど、様々な分野がある。

【人材事情】
ローカルフードを提供している店員の印象。非常に親切。
こちらが注文したメニューを良く覚え、メニューにも精通した印象。
一方アナログの処理をまだまだ行っているので、個人個人のスキルや接客対応に大きなバラツキがあり、それを問題視するような経営者はまだ少ないと感じる。

店のスタッフは価格帯、提供している立地や場所、扱っているメニューによって、個々の対応がバラバラ。
ここに日本式のちょっとしたサービス、いわゆるちょっとしたおせっかいのサービスを提供する発想はありだと感じる。
ローカルに出店した場合の社員教育はどのお店でも苦労しているという話を伺った。
日食の店舗では数年かけて毎週1回、社員を集めて日本語に加えて、サービスのあり方や考え方を徹底的に教育していると言う。

これを外注して、他の飲食業に提供するというサービスはあってもよい。
1次、2次産業の割合が徐々に3次産業に移るいまの時期、上記のようなコンテンツを展開するビジネスの成長は大いに考えられる。

日本と比較した場合、圧倒的に他の国でのサービス業の基本は低い。
クアラ・ルンプールでの水族館、モール、高級レストラン。どこに行ってもハードは充実しているがソフトは一切ついていっていない。
人口が3000万人で日本の土地の0.9倍の国。今後、労働力不足が出てくる可能性は高い。
マレーシアでも内地の人材派遣ビジネスは徐々に認知されていっている。

マハティール首相は、90年代はマレーシアの優秀な学生をこぞって国費留学させていた。
現在は現地の普通の人材に対しても日本のサービス業やスピリッツを学ばせたい需要が強い。
マレーシアの労働者や学生を短期間受け入れる企業があれば、マレーシアからの補助金を取ることも可能。

南国文化なのか、朝のスタートはゆるく、夜は遅くまで賑わっている。
夜の時間帯でフードコートやレストランが賑わい始める時間は19時過ぎ頃からでピークは21時頃と日本と比較すると2時間程度は遅い印象。
屋台は朝の10時頃から賑わっている。日本のように仕事を持つ人は朝の出社前、昼の12時から13時に、その他の時間の客層は主婦、という景色ではない。
いったい彼らはいつ仕事をしている?と思うほど、様々な年齢層の人があふれている。
聞くところによると、公務員ではまずはじめにスタンプカードで行動を管理したとか。
夜が遅い国のため出社がなんとなくルーズ。そして16時頃には交通渋滞が始まるので、皆早めに帰っていたそう。
そこで、例えば9時から17時の時間を縛るためにタイムカードを活用した、と。
実に国民性を表すお話だと思う。
(記:早嶋 聡史)

(この項続く) 「マレーシア視察報告 その2」 は こちら

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