グローバル人材に求められる力とその育成方法について ―グローバル5Qとは?― by安部哲也

*この記事は東レ経営研究所発行の雑誌「経営センサー」2014年7・8月号に掲載されたものです。
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【Point】
 ①グローバル人材には5つのQ(力)、IQ(専門性、論理力)、EQ(リーダーシップ)、CQ(異文化対応力)、AQ(逆境対応力)、LQ(語学力)が求められる
 ②グローバル5Qをバランスよく育成する必要がある(ヒントと企業事例の紹介)
 ③グローバル5Q 診断ツール(簡易版)

言うまでもなく、多くの日本企業にとって、日本国内での事業に加え、海外での事業展開が経営の重要課題の一つとなっている。日本国内の人口減少、高齢化、産業の成熟化などから、欧米のみならず、アジア、中近東、アフリカなどをはじめとする成長市場での事業展開が不可欠となってきている。各企業は積極的な海外事業展開のためのビジョン、戦略を打ち出してきている。そのようなグローバルビジョン、戦略を推進していくグローバル人材が質・量ともに不足しているのが多くの企業の現状である。しかしながら、グローバル人材に求められる能力をTOEICなどの英語力のみにフォーカスしていたり、また明確に定義していない企業も多く見られる。それではグローバルで活躍するためには、どのような能力が求められ、またそれをどのように育成するのであろうか。

1.       グローバル人材(リーダー)に求められるスキル・マインドは?

弊社では、アジアのトップビジネススクールの一つシンガポール国立大学(NUS)で、アジアのみならず世界でグローバル・リーダー育成に豊富な経験を持つDr Prem Shamdasani 教授などのアドバイスを得ながら、グローバル人材に求められるスキル・マインドを下記の5Q(5つの力)と定義している。

5Qとは、IQ(専門性、論理力)、EQ(リーダーシップ)、CQ(異文化対応力)、AQ(逆境対応力)、LQ(語学力)である。次に一つずつその内容を説明する。

グローバル人材に求められる5つのスキル 5Q

① IQ (Intelligence Quotient):知的指数

一つ目の力は、IQ(知的指数)である。IQは二つの要素から成り立っている。

一つは専門性、ビジネス知識、実務スキルや経験などで、国内のみならず海外でも通用する専門性である。高い専門性がなければ、海外はおろか、国内でも通用しない。かなり極端な例かもしれないが、大手電機メーカーのエンジニアM氏は、技術的な専門用語以外、“YES”,“NO”,“OK”,“GOOD”など限られた英語しか使わないが、その分野における専門用語(専門用語はほとんどが英語)とジェスチャーを織り交ぜながら、積極的に外国人とコミュニケーションをとり、同社の海外技術移転プロジェクトの責任者として、重要な役割を果たしている。国内外で通用する、高い専門性の重要さを示す例である。

IQのもう一つの要素は、論理的思考力、論理的コミュニケーション力である。

大手電機メーカーのシンガポールにあるアジア統括拠点でインタビュー調査を行った際、どちらも日本国内では優秀な人材と評価されていた現地責任者A氏とB氏では、海外での評価が大きく異なる結果となった。論理的思考力があり、筋道立てて分かりやすく、論理的にコミュニケーションできるA氏は、海外の部下からの信頼が厚く、結果、大いに成果を上げていた。ところが、B氏のコミュニケーションは表現があいまいで、論理的なコミュニケーションができていなかったため、外国人の部下にビジョンや判断が伝わらず、国内では成果を出していたものの、海外では十分な成果を出すことができなかった。

<アドバイス>
1)自分自身の専門性が国内外で通用するものかどうか意識し、向上に努める
2)論理的思考の基礎(ツリー構造、マトリクス構造、MECE〔もれなく、ダブりなく分析する〕 など)を理解し、活用できるようにしておく

② EQ (Emotional Quotient):感情指数

二つ目の力は、EQ(感情指数)である。他者の気持ちを理解することと他者の気持ちに対して有効に働きかけができることである。同分野の研究者であるイェール大学のピーター・サロベイ博士などの調査研究では、IQよりもEQのほうが仕事の成果への影響が大きいことを述べている。

日本企業においても、IQは高いが、チームで仕事をする上で重要な他者の気持ちを理解すること・対応することができずに、他者と共同作業がうまくできなかったり、上司になったとき部下をうまくリードできないケースが多数存在する。

大手メーカーのマーケティング営業部門のT氏は、国内での業績などを評価され、中国の駐在員となった。T氏は日本国内では、主任という立場で部下・後輩1~2名を持つ立場であったが、海外ではその責任が大きくなり、首席駐在員として10名ほどの部下をリードする立場となった。自分が中心となって仕事をするプレーヤーと、他者を巻き込みリードする必要があるリーダーとでは、役割が大きく違い、当初大いに苦労をしたとのこと。プレーヤーからリーダーになると、人の気持ちを理解し、影響していくEQの重要性が大きく増してくる。

EQの高い人は、例えば、他者へ積極的にあいさつ・声掛けや傾聴を行い、また感謝・承認などを伝える前向きなストローク(コミュニケーション)を行っている。

<アドバイス>
1)他者の話をよく聞くなどし、理解力、共感力を高める
2)仕事と仕事以外(例えばイベントの幹事など)の、リーダーシップを発揮する場を積極的に設け、リーダーシップを実践する

③ CQ(Cultural Quotient):異文化指数

ここまで述べたIQとEQは、国内においてもグローバルにおいても共通して必要となるスキルである。ここで述べるCQ(異文化指数)は、異文化を理解し異文化に対応する力であり、特にグローバルにおいて重要となるスキルである。このCQがグローバルで成果を上げられるかどうかの一つの重要な指標となる。

大手製薬会社 台湾支社社長のA氏、大手食品会社 中国上海支社長のN氏などにインタビューした際、共通して出てきた言葉が「国籍が違っても、決して見下したり、逆にこちらを卑下することなく、目線、気持ちを合わせ、人間同士対等に向き合うこと」であった。

これは異文化理解・対応の大前提となる考え方である。

A氏、N氏は、自国の文化・歴史などをよく知り、また他国の文化・歴史などにも関心を持ち、理解するようにしている。

また、異文化環境でのコミュニケーションにおいて、日本はいわゆる「あうん」の呼吸が通じるハイコンテクスト文化に属するため、どうしても「言葉足らず」となってしまい、コミュニケーションが効果的にならないケースが多い。ハイコンテクスト文化とは、背景や考え方が共有されているため、コンテンツ(内容)が十分でなくともコミュニケーションが成立しやすい文化である。5W1H(誰が、どこで、いつ、なぜ、何を、どのように)などを意識ししながら、コミュニケーションをとっていく必要がある。

異文化理解の権威 フォン・トロンペナー教授は、異文化対応を三つのステップとして、

1)異文化を理解すること

2)異文化を尊重すること

3)異文化をうまく活用すること

と述べている。

<アドバイス>
1)日本、他国の歴史・文化などを学ぶ
2)バックグラウンド、価値観などの異なる外国人などと交流する機会を持つ

④ AQ(Adversity Quotient):逆境指数

グローバルビジネスにおいては、時差、移動時間、食事の違い、気候の違い、生活環境の違い、習慣の違いなど様々な逆境と向き合うこととなる。

このような逆境を乗り越えて前に進んでいく力、これがAQ(逆境指数)である。

前述のIQ、EQ、CQは十分あるが、このAQが不足しているために、グローバルでうまくいかないケースも見られる。大手電機メーカーの香港駐在員であったS氏は、自国と現地のビジネスや生活環境の違いを精神的・体力的にうまく乗り越えられずに、任期途中にて帰国をすることとなった。逆境を乗り越える力を養っていく必要がある。

<アドバイス>
1)自分自身の目標を持ち、行動・振り返りを行う
2)困ったときに相談できるメンター、先輩、友人などを持ち、相談する
3)日本にいるとき以上に健康管理、体力づくりを心掛ける

⑤ LQ(Language quotient): 語学指数

五つ目のQは、言うまでもなくLQ(語学指数)である。英語をはじめとして中国語、スペイン語など外国語の語学力はあったほうがグローバルで社内外のマネジメントや交渉を行いやすくなる。ここで、どのような語学をどこまで高める必要があるかが問題となる。

これにはさまざまな意見・考え方があり、一つの正解があるわけではないが、筆者の見解を述べる。グローバルでビジネスを行うビジネスパーソンの英語としては、ネイティブスピーカーに近い発音・言い回しなどをする英語よりも、実践で使えるシンプルな英語でよいのではないかと考える。単語、文法、言い回しの違いを気にしすぎて話せないよりも、多少の間違いはあっても、積極的に聞く、話す、読む、書くなどでコミュニケーションをとっている人のほうが、ビジネスにおける成果を上げているようである。

例として、ブリヂストン社では、ナショナル・イングリッシュ(同社内の造語)を社内共通言語としている。ナショナル・イングリッシュとは英米などのネイティブ・イングリッシュではなく、「自分の国で習った英語」である。日本人は日本で、中国人は中国で習った英語で対話をするというものである。英語が苦手な日本人でも気後れせずに積極的に、これまで習ってきた英語で会話することができる。むしろこのような多様な英語で対話することが企業の多様性を生み出すという。

<アドバイス>
1)英語(もしくは他言語)学習を習慣化する
2) 英語(他言語)を学ぶだけではなく、積極的に英語(他言語)を活用する機会を設ける

2.  グローバル人材をどのように育成するのか? 企業における具体的事例

下記は一例であるが、弊社で行っている日系企業向けグローバル人材育成の事例を紹介する。

① 大手IT企業 新人向けグローバル・マインド研修

新入社員全員(約500人)に対し、グローバル・マインド半日研修を実施。

日本と世界の経済・社会などに関する知識を共有し、グローバルで求められる力を理解し、今後の行動プランを作成する。異文化環境で仕事をする際のポイントなども共有している。新入社員全員に入社当時から常にグローバルを意識しながら自分の仕事に取り組んでもらうことを狙いとしている。

② 大手消費財メーカー若手社員向け グローバル・ディスカッション力研修

若手社員(約20名)に対し、英語(LQ)+異文化対応力(CQ)など約5カ月間 全5日間のトレーニングを実施。トレーニングは初回研修では、英語30%+日本語70%くらいの割合でスタートするが、徐々に英語の割合を増やし、最終の研修ではほぼ英語100%とする。また異文化理解力を高めるため、毎回、欧米、アジア、アフリカのティーチングアシスタントが参加し、自国の文化・歴史の紹介やディスカッションを行う。

③ 大手保険会社次世代グローバル経営者向け グローバル・ユニバーシティ

約15名の日本人+約10名の外国人経営幹部に対する教育とOJTを含め、約1年間のプロジェクトである。日本での経営基礎スキル研修(IQ)とリーダーシップ研修(EQ)、海外での英語研修(LQ)、シンガポール国立大学などのビジネススクールで経営応用知識(IQ)の獲得、多国籍のメンバーで議論することで異文化対応力向上(CQ)、グローバル新規事業提案などの挑戦的な課題取り組みを短期間で国境を越えたチームで行うことなどで、逆境対応力(AQ)の育成を行っている。

3.  グローバル人材育成に関する提言

① 自社・自部門で求めるグローバル人材の要件を明確化する

各社の置かれている社内外事業環境により、求めるグローバル人材像は異なってくる。これを定義することが肝要である。上記の五つの力も参考とし、自社の状況に合わせ設計すべきである。(例えば、自社の経営理念の理解と実行、リスクテイキングなど。)

② グローバル人材育成のプロセスを明確化する

一般に、人材育成においては実務経験からの学びが70%、人からの学びが20%、研修からの学びが10%といわれている。

実務からの学びを与えるため、計画的に国内外における異動、ローテーションを行う。人からの学び、研修からの学びを促進するため、メンター、コーチの設定、効果的な研修実施を行う。

多くの日本企業にとって、グローバルビジョン・戦略の実現のためには、グローバル人材の質・量(数)ともに向上していく必要がある。上記が何かのヒントとなれば誠に幸いである。

グローバル マインド・スキル 自己診断シート

ご感想・お問い合わせ等は Email: qa★eqpartners.com
(★マークを@マークに変更して送信ください。)までお寄せください。

グローバル人材に求められる力とその育成方法について ―グローバル5Qとは?― by安部哲也」への4件のフィードバック

  1. ピンバック: 「東レ 経営センサー」(2015年10月号)に記事が掲載されました | EQ PARTNERS BLOG

  2. ピンバック: 「東レ 経営センサー」(2015年10月号)にソーシャル・ビジネスの記事が掲載されました | EQ PARTNERS BLOG

  3. ピンバック: 東レ「経営センサー」(2016年5月号)に若林講師の記事が掲載されました | EQ PARTNERS BLOG

  4. ピンバック: 東レ「経営センサー」に弊社講師の記事が掲載されました | EQ PARTNERS BLOG

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