【コラム】“ダイバーシティは目的ではない”

 最近新聞・雑誌などで、各企業のダイバーシティ推進についての記事
をよく目にするようになってきました。
 ここでは「ダイバーシティ経営」とは“多様性を推進する経営によって
企業価値向上を行うこと”とさせていただきます。

 「○○年までに女性管理者比率を□□%にする」、「*年内に外国人比率
を△△%にする」等の数値目標設定をしている企業も多いようです。
 しかしながら、その数値目標のみがいつの間にか独り歩きし、実態と
本来の目的に合致していないケースも出てくるのではないかと危惧します。

 以前、IBMの元CEOルイス・ガースナー氏の講演を聞いた際、「IBMの
女性活躍推進は、福祉でもCSRでもなく経営戦略である。日本企業が
日本の優秀な女性社員を活躍させていないことは、IBMにとって優秀な
女性社員を採用できるので、ありがたいことである。」と語っていました。
あくまで経営ビジョン・戦略実現のためのダイバーシティ推進という考え
方でした。

 私自身、大手メーカーの香港駐在員として、また現在シンガポールでも
法人を経営していますが、これらの国では女性・男性がほぼ対等に職場で
活躍しており、日本でも環境を整えれば、女性やまた外国人の活躍の余地
があることは間違いないと思っています。

 ダイバーシティ経営における目的は企業価値の創造・向上であり、その
ための手段として、ダイバーシティを推進することが重要と考えます。
 また従来、日本企業の強みは“アン・ダイバーシティ(均一性)”であっ
たかと思います。企業の状況、業種などによって、ダイバーシティ化の
メリットとデメリットとをよく勘案し、「いまの段階ではあえてダイバーシ
ティを推進しない」という経営の選択肢もあるかもしれません。

 「政府方針であるから」、「他の日本企業が行っているから」など日本
国内だけを見た考えで行っていると、日本企業の本来の競争相手である
欧米などの先進国企業、アジア、中近東、アフリカなどの新興国企業との
競争に打ち勝てなくなる危険性があるようにも思えます。

 私見では、ダイバーシティ経営を推進する場合の要諦は下記と考えます。
1)ダイバーシティ経営の目的は、経営力・組織力強化、
  イノベーション推進などであり、
  女性、外国人などの比率を高めること自体が目的ではない。
2)企業の組織形態、意思決定や仕事の進め方の仕組みを変える必要がある。
  [例]長時間労働を前提に全員で協力して進めることから、役割分担、
    責任、ジョブディスクリプションを明確にし仕事を進める など
3)ダイバーシティ経営のためには、マイノリティのための教育以上に
  マジョリティへの教育を行うべきである。
  [例]女性活躍推進のためには、女性(マイノリティ)に対する教育以上
    に男性(マジョリティ)に対する教育を行う
4)個人の暗黙知を組織の形式知とする。
  日本企業の場合、各個人が暗黙知として知識やノウハウを持っている
  ことが多くある。その暗黙知を目に見える形へと形式知化し、さらに
  組織の形式知とする。
5)ダイバーシティ経営には、多様化すると同時に、企業の方向性である
  ミッション、ビジョン、ウェイなどの共有、共感を推進すべきである。
  
 EQパートナーズ株式会社 代表
 立教大学大学院 ビジネスデザイン研究科(MBA) 特任教授 安部哲也

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